健康コラム

ひょっとして認知症? 気づきのポイント

認知機能にはさまざまな種類がある

認知機能には、①記憶力以外にも、②複雑なものでも認識できるだけの注意力、③新しいことを学習する能力、④コミュニュケーションをとるのに必要な言語能力、⑤視覚・聴覚を活用しての理解力、⑥記憶や経験に照らしての判断力、⑦社会の約束ごとの理解力、⑧プランをたてた上で、それを実行する遂行力など、さまざまなものがあり、どれもが大切です。

複数の認知機能が低下すると自立した社会生活を送ることが困難となるので「認知症」と診断され、その低下の程度が軽い場合を「軽度認知症(MCI)」といいます。

家庭での認知症の早期発見は難しい

子どもの認知機能の向上変化をつかみづらいのと同様に、大人の認知機能の低下を周囲が早期に気づくことは極めて難しいのが現実です。詳しい心理検査をすると、健常人でも極めて緩やかに低下していることが分かります。言語能力の低下は軽い一方、遂行能力がより強く低下することは知っておくべきです。しかし、それらはその気でテストした結果で初めて分かることです。よく「このような症状に注意しましょう」などとさまざまな早期発見のポイントが言われますが、そのような症状に気づいた時には、認知機能の低下は、すでに、かなり進行しているのが一般的です。

認知能力の低下に最初に気づくのは本人自身かもしれません。その時は検査を受けるチャンスです。しかし、次第にその自覚が乏しくなり、自らの認知機能の低下を周囲に悟られたくないという気持ちが働き、取りつくろいがみられるようになります。そのために、周囲が気づきにくくなるという側面があります。「うちのおじいちゃんの認知能力は歳相応」と思っている場合でも、実際には、症状が進行していることが少なくありません。多くの老人に注意深く接した経験がないにもかかわらず、つい、歳相応なのではと思い込んでしまいます。認知症の専門医でも自分の肉親の認知機能の低下を過少評価することさえあるくらい難しいのです。

会社勤務で認知症が早期に発見されることが多いのはなぜか

会社勤務者の場合に比較的早く認知症が発見されるのは、作業能率が常に評価されているからです。しかし、認知症の多くは、定年を過ぎ、家庭に入った後で発症するので、早期発見が難しくなります。独居世帯や老老世帯など、周囲との日常的な接触の機会が少なければ少ないほど気づきが遅れます。

本人の尊厳に配慮しつつ、定期的にチェックすること。そして、それを記録すること。

相手から試験をされていることに気づくと、誰しも、素直な気持ちになれなくなります。家族からそのように見られると分かると尚更です。でも、その気になって評価しないと、能力低下に気づきにくいことも確かです。従って、相手が嫌な気持ちにならないような方法で、上手に試すことがポイントです。

接触する機会が少ない場合に私が勧めるのは、家族の写真アルバムの活用です。写真にまつわるさまざまな事柄を質問し、それを記録する方法です。相手から教えていただくという態度で、人間関係など、さまざまなことを質問し、それを記録するとよいでしょう。認知能力が低下すると、一見確からしい返事が返ってきても、詳しく聞くと、時間軸や相互の関係性を取り違え、思い出すのに時間がかかるようになります。その怪しさを記録し、毎年の変化を振り返ることで、認知能力の低下を推し量ることができます。自分の知らないことを聞き出せた場合には、それはそれで次世代の嬉しい宝物になります。

加えて、日頃の支援の実態も書き込んでおくと良いでしょう。微妙な変化は、細かな記録がなければ気付きにくいからですが、「支援を必要とするのは認知機能の低下のため?」という視点が重要です。