健康コラム

個別化治療とがん遺伝子検査

一人一人に適したがん治療を

近年、がんに対する医療の進歩は著しく、予防から診断・治療までさまざまな発展がみられています。その中で「個別化治療」という言葉をご存知でしょうか? がんの医療では遺伝子情報に基づく個別化治療が始まっています。
これまでのがん医療では、肺がん、大腸がん、乳がんといったがんの種類別に治療や薬が選ばれていました。しかし、2000年代に入り、がんの原因となっている分子(タンパク質)やその基となる遺伝子の解明が進み、このような分子や遺伝子などに働く「分子標的薬」を使うことができるようになってきました。
がんの種類だけではなく、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、一人一人に適した治療を行うことを「個別化治療」と呼びます。
当院で検査が可能な、少数の遺伝子を調べる「がん遺伝子検査」について簡単に解説します。なお、標準治療がないがんや標準治療が終了したなどの場合に多数の遺伝子を調べる『がん遺伝子パネル検査』がありますが、こちらは当院ではできません(図1)。

がん遺伝子検査

胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなど一部のがんでは、医師が必要と判断した場合にがん遺伝子検査を行い、1つまたはいくつかの遺伝子を調べ、診断したり、検査結果をもとに薬を選んで治療することがすでに行われています。
とくに「薬が効きそうか」「副作用が出やすいか」についての判断などに役立てています。

「薬が効きそうか」

胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなどでは、生検や手術などで取り出したがんの組織の遺伝子を検査することにより「薬が効きそうか」についての判断を行います。また、乳がんや卵巣がんでは、生まれもった遺伝子の個人差が、「薬が効きそうか」についての判断に使われることがあります。
検査では、使用を検討している薬に合わせた遺伝子変異を調べる診断キット(コンパニオン診断薬といいます)を用いて、遺伝子の変異の有無を調べます。遺伝子検査の結果により、標準治療に基づいて、その遺伝子変異に合った薬を選んで治療を行います(表1)。
例えば、切除不能の大腸がんの患者さんが、薬物療法が必要となった場合に、診断キットを用いて、RAS遺伝子とBRAF遺伝子の変異の有無を検査します。それぞれの遺伝子の変異がある場合とない場合には、「分子標的薬」の選択肢が異なってきます。
また「マイクロサテライト不安定検査」と呼ばれる、ゲノム上の5カ所の領域を調べる診断薬を用いて免疫療法が効きそうかについて調べることが可能です。詳細は主治医にご確認ください。

「副作用が出やすいか」

「副作用が出やすいか」についての判断の検査では、薬を使う前に血液検査を行い、その人の体質によって重篤な副作用が出る可能性がないかを調べます。検査の結果によって、副作用が出にくい人ではその薬で治療を行います。副作用が出やすい人では、薬の量を調節して治療を行うことがあります。
代表的な例として、胃癌や大腸癌の薬物療法で使用されるイリノテカンという抗がん剤で重篤な副作用(好中球減少や下痢など)が出やすい体質かを調べるために、血液を用いてUDPグルクロン酸転移酵素遺伝子のパターンを調べます。

医療知識はどんどん新しくなっていきますので、情報に耳を傾け、自分にあった治療が受けられるように、主治医の先生とよく相談していきましょう。