健康コラム

BNP(ビーエヌピー)の話

BNPとは?

皆さんはBNP(ビーエヌピー)という言葉を聞かれたことがありますか。心臓の検査で心電図や胸部レントゲン検査、心臓のエコーなどは聞いたことがあるかと思いますが、心臓病の患者さんの間でも意外に「知名度」は高くないかもしれません。最近は人間ドックの項目に入っている施設もありますので、むしろ健康人で知っている方が結構いらっしゃるかもしれません。実はBNPとは心臓の負担の程度(逆に言うと元気度)がわかる血液検査のことです。BNPは正式な名前をBrain Natriuretic Peptide(日本語で脳性ナトリウム利尿ペプチド)と言う心臓(主に心室)から分泌されるホルモンです。その頭文字をとってBNPと呼んでいますが、恐らくこの長くて難しい名前が患者さんの間で知名度の低い理由の一つかもしれません。そうは言ってもこのBNPは1988年に松尾壽之博士、寒川賢治博士によって発見され、現在心不全の程度を示す唯一の血液検査として世界中で用いられています。日本が世界に誇る大発見です。心臓から分泌されるのになぜ脳性なのかと言うと、最初にブタの脳から単離(※)されたことによります。
※「単離」:生体や生物組織から、特定の細胞、遺伝子、たんぱく質などを分離すること

心不全との関係性

皆さんご存知のように日本人の死因トップは悪性新生物ですが、2位は心疾患です。心疾患の内訳は急性心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患が半分近くを占めますが、死因として最も多いのはBNPと関係の深い心不全です。心不全はよく聞く言葉ですが病気の名前ではありません。心不全は重症度によりⅠ度からⅣ度に分類されますが、心臓の機能が低下して心臓への負担が大きいほどBNPが多く分泌され、数値が高くなります。本来は血圧を低下させ利尿を促す作用がありますので、同じ仲間のホルモンであるANP(主に心房から分泌される)は心不全の治療薬として使われているくらいです。

BNPの有用性

現在BNPの有用性は大きく三つ挙げられます。

  1. 心不全と他の疾患との鑑別に有用です。気管支喘息などの呼吸器疾患は症状が心不全と紛らわしいことがありますが、BNPはあまり上昇しません。
  2. Ⅰ度(無症状)、Ⅱ度(軽症)の心不全でもBNPの上昇が確認でき早期に心疾患を診断できます。
  3. 心不全の経過観察に有用です。BNPは症状、体重、胸部レントゲン検査よりも心不全の改善や悪化に先行して変動することが多いので、例えば症状出現前、BNP上昇時に治療を強化することで入院を未然に防ぐことも可能です。

BNPはこのように有用な検査ですが、BNPだけで心臓病の全てが分かるわけではありません。他の検査と組み合わせて総合判断をすることになります。すでに心不全と診断されている患者さんでも、それぞれの患者さんの最適の値がありますので、数値そのものに一喜一憂することなく主治医の先生とよくご相談ください。