健康コラム
変形性股関節症とは?
股関節の特徴は?
大腿骨の頭部と骨盤側の受け皿である寛骨臼に収まる形で構成される「球関節」です。
人体の中の関節の多くは、曲げ伸ばしの動きしかできませんが、球関節はあらゆる方向に自由に動かすことができます。肩関節も球関節の1つですが、体重を支える球関節は股関節のみで、歩行において最も重要な関節です。人類が4足歩行から2足歩行へと進化した際、股関節は最も影響を受けました。2足歩行では、股関節が伸びた状態で使われるため、前方への安定性が低く不安定なため、他の関節と比べて若年期から変形が起こりやすいのが特徴です。
生後間もなく発症する「発育性股関節形成不全」(股関節脱臼)や、10代で寛骨臼の成長が不十分(骨頭を支える部分が少ない)な「寛骨臼(臼蓋)形成不全」は、10代から股関節に痛みを感じることがあり、これほど若いうちから骨の成長の影響を受ける関節は股関節だけです。
この寛骨臼形成不全は、軟骨がすり減り「変形性股関節症」の原因となります。変形性股関節症の約7~8割はこの形成不全が関係しており、早い方は30~40代より痛みが出て、軟骨がすり減り変形が始まります。そして、女性に圧倒的に多く見られることも特徴の一つです。
変形性股関節症の症状って?
変形性股関節症の主な症状は、「痛み」と「関節を動かす範囲が狭くなる」ことです。初期段階では、動き始めの際に痛みがでることが多く、変形が進行すると、歩行時にも痛みが現れ、さらに進行すると夜間に痛みで目が覚めるなど、日常生活に大きな影響が出てきます。
痛みの原因は、「骨の変形」によるものと、「股関節を動かす筋肉の障害」があります。
股関節の動きに関与する筋肉は22個もあり、どの筋肉に障害が起きても股関節に痛みを生じるため、痛みの部位は多岐にわたります。
また、関節を動かす範囲が狭くなる原因としては、骨の変形だけではなく、股関節周囲の筋肉や靭帯が硬くなることも挙げられ、動きが制限されることで筋力が低下し、次第に歩行が困難になることもあります。
変形性股関節症の治療方法は?
「保存療法」と「手術療法」があります。
保存療法で最も大事なのは、関節の動きを保つこと、つまりストレッチです。
例えば、胡坐がかけない、正座ができない、脚を組めないといった動作が困難になってきたら要注意です。股関節周囲の筋肉が硬くなると、腰や膝にも負担がかかり、最終的に、「変形性腰椎症」や「変形性膝関節症」へと進行する可能性があり、これらの状態になると元の状態に戻すのは難しくなります。
ストレッチの際に最も重要なことは呼吸です。力んだ状態でストレッチしても効果が得られません。大きく、ゆっくりとした呼吸を意識しながら行ってください。
手術療法では、以下の手術を行います
寛骨臼(臼蓋)形成不全
寛骨臼が浅く骨頭がうまく覆われていないので、体重を支える骨を増やすため、骨盤の一部を切って回転させ、骨頭をより広く覆うように調整し荷重の分散を図る、寛骨臼回転骨切り術を行います。対象は、通常10歳代から50歳代までの比較的若い世代です。痛みの軽減と、変形の進行を少しでも遅らせることを目的に手術します。
変形性股関節症
X線検査などで、軟骨のすり減りや骨頭の変形が確認され、内服やリハビリテーションでも症状が改善しない場合には、人工股関節置換術を考えます。ただし、受診時点で関節の動きが既に悪い場合や変形の程度が強い場合には、初期段階から手術を勧めることもあります。
いずれの手術もナビゲーションや手術支援ロボットを用いて、より安全かつ正確に手術を行います。
ナビゲーションや手術支援ロボットが普及した背景
~患者さんのメリット~
人工股関節は主に骨盤側に挿入する「カップ」と大腿骨に挿入する「ステム」の2つの手術材料を使用します。通常、患者さんに適した2つの手術材料のサイズを二次元のX線画像だけで決定することは困難なため、CT画像を用いて、より正確なサイズを手術前に決定しておくことで、正確な手術計画が行えます。
ナビゲーションとロボットは、CT画像をもとに作成した三次元データを計画通りに挿入するための支援器械です。ロボットは自動で勝手に動くイメージがありますが、あくまでもロボットを動かすのは医師です。人間がどんなに匠な技術を持っていたとしても、ナビゲーションやロボットのように1度1㎜の精度で挿入することは難しく、この支援機器を用いてカップやステムを正確に挿入することにより、手術における合併症を減らすことができるなど、患者さんにとっては多くのメリットがあります。
手術後の注意点
予防・早期発見のために
定期健診には必ず来ていただきます。症状が全くなくてもX線上で問題が進行している可能性もありますので、術後1か月・3か月・6 ヵ月・1年の定期健診が終了した後も、少なくとも1年に1回の受診をお勧めいたします。
また、日常生活では、特に転倒に注意が必要です。転倒によって人工股関節の脱臼や周囲で骨折が起こる可能性があり再手術が必要になることもあります。
現在の人工股関節の寿命は約30年といわれていますが、人工股関節を支えているのは患者さん自身の骨です。骨は加齢とともにもろくなっていくため、骨粗しょう症の治療を適切なタイミングで開始することで人工股関節の安定性を長く保つことができます。