健康コラム
糖尿病
糖尿病とは
糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。
すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの量の不足(分泌不全)や、作られたインスリンが十分に作用しないこと(インスリン抵抗性)で起こります。
糖尿病には、1型と2型がありますが、一般的な糖尿病は2型糖尿病で10人に9人以上はこのタイプです。ここでは2型糖尿病についてのお話となります。
糖尿病の要因はさまざまですが、食生活などの環境因子と体質(遺伝)の組み合わせで起こります。環境因子は、肥満・食べ過ぎ・運動不足・ストレスなどで、特に肥満の方や、20歳頃の体重から10㎏以上増加している方などは、糖尿病発症リスクは高くなります。しかし体質として日本人は遺伝的にインスリン分泌不全の方が多いので、肥満がなくても糖尿病を発症することが多い人種です。「糖尿病で治療中+糖尿病が強く疑われる人」の割合は、成人男性の18.1%、成人女性の9.1%と高く、よくある病気となっています。
血糖値が高い状態が持続すると
慢性的な高血糖は、全身の血管にダメージを与え、全身の臓器にさまざまな合併症を引きおこします。太い血管へのダメージによる脳梗塞・心筋梗塞、細い血管ヘのダメージによる網膜症(視力低下)・腎障害・神経障害などです。他にも認知症・骨粗鬆症・サルコペニアのリスクを増加させたり、免疫力低下による感染症の増加など、万病のもととなります。
ただし、糖尿病を発症していても血糖値を良好に管理することで、合併症の発症予防・進行予防ができますので、糖尿病を放置しない・きちんと向き合うことが大切です。
糖尿病の診断は
よほどの高血糖ではない限り、血糖値が高くても自分ではわかりません。健康診断での採血や、たまたま他の病気で採血して判明することがほとんどです。血糖値とともに、HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)というマーカーが重要で、これは過去1-2か月の平均血糖を反映しています。HbA1cが5.7%以上だと糖尿病予備軍の疑いあり、HbA1c 6.5%以上だとすでに糖尿病を発症している可能性が高い、と大まかな基準となります。
治療の目標値としてもHbA1cを使用します。一般的な治療目標値は、HbA1c 7.0%未満ですが、年齢や合併症の程度・治療内容によって、治療目標値は個人個人で違いますので、ご自身の治療目標値をきちんと確認しておくことが重要です。
糖尿病の治療
治療は、生活習慣の見直し、食事療法、運動療法が基本となります。肥満の方は、ある程度体重を減らすことが大切です。肥満がない方も、炭水化物の過剰摂取や、間食・夜食など、血糖値の上がりやすい食生活は見直しましょう。
ウォーキングなどの有酸素運動、レジスタンス運動など日常的に体を動かすことは、インスリン抵抗性を改善して、血糖低下作用が期待できます。
必要な方には、薬物療法も行います。薬には、内服薬と注射薬があり、個人の状態(肥満の有無、インスリン分泌量、生活スタイルなど)に合わせて、薬を選びます。すい臓に働いてインスリン分泌を促す薬、肝臓や筋肉に働いてインスリンの効きをよくする薬、尿に糖をだすことで血糖値を下げる薬、インスリンの注射剤など、作用する機序や臓器が違うさまざまな薬があり、1 剤のみで血糖値が下がらない場合は数種類の薬を組み合わせていきます。
その中で一番新しい薬である「チルゼパチド」を紹介します。これはインクレチンという消化管ホルモンであるGIPとGLPIを配合したGIP/GLPI受容体作動薬で、週1回の注射製剤です。インクレチンは、食べ物が腸を通過する際に小腸から分泌されるホルモンで、すい臓でのインスリン分泌促進作用があり、これにより食後血糖が低下します。その他に、胃腸の動きを抑制する作用や、視床下部の満腹中枢に働き食欲を抑制する作用もあり、自然と食事量がセーブされ体重減少作用を発揮します。肥満合併の糖尿病症例によい適応となっています。
最後に
糖尿病治療の目標は、血糖値を良好に維持して、合併症の発症や進展を阻止して、「糖尿病がない人と変わらない日常生活の質と寿命を確保すること」です。外来で、85歳の男性患者さんが「糖尿病になってもう30年だけど、体は何ともないし元気なんだよな。ほんとに病気なのかな。」とお話されていました。それは、治療を継続したことで糖尿病治療がうまくいっている結果です。
糖尿病疑いのある方、糖尿病の診断後未治療の方など、無症状だからと放置せず、定期的な検査と治療を受けましょう。